2012.09.02 14:50 (GMT+9)
Category:PC
 今年のIFAではWindows 8の登場が近いということで、多数の搭載機がお目見えしましたね。海外のイベントなので日本メーカーの姿は殆どありませんでしたが、大手海外ベンダーは一通り出そろっていたように思います。ご存じの通り、次期Windowsはタッチフレンドリーということで多くのモデルがタッチパネル採用だったり、あるいはスタイラス対応機も出てきたところに新たなムーブメントを感じましたが、個人的に注目したいのはモニタの高精細化です。この話題はもっぱらAppleの"Retina"に関連づけられることが多いですが、もちろんそれを否定するつもりはありませんが、今回はWindows陣営の高精細化ついて考えてみようと思います。
 IFA2012でSONYが出してきたVAIO Duo 11は11.6型/1920x1080。MicrosoftのSurfaceもProモデルは10.6型/1920x1080。また、あくまでもエンジニアサンプルですが、Samsungも13型/2560x1440のUltrabookを用意してきました。Windows 8に合わせて急速なモニタの高精細度化が進むことはおそらく間違いないでしょう。ユーザーサイドからしてみると、というか個人的には高精細度化は素直に嬉しいです。単純に解像度が上がるのとは違い様々な問題点も伴いますが、それでも基本的にはより表示が綺麗になることを意味します。とりあえず筆者はすぐにでも高精細度モニタにしたいぐらいです。また、これまでは人によっては高すぎる精細度はむしろ使い勝手が悪いと避けるケースも珍しくありませんでしたが、Windows 8の登場によってより多くのユーザーが高精細度の恩恵を受けられるようになるでしょう。

 そもそも精細度とは何なのか、念のために確認しておきたいと思います。PCのモニタはピクセルで構成されています。よって、解像度という概念があり、これはそのモニタが抱える画素数を意味し情報量の多さを表しています。1920x1080等の表現は画素数を横x縦で示しているわけです。これに対して、精細度とはモニタ上の画素の細かさを表しています。単位としてDPIが使われ、1インチあたりに画素がいくつ並んでいるか示しています。つまり、同様の解像度であれば物理的に小さいモニタの方が精細度が高い、きめ細やかな表示となるわけです。この精細度という概念は全く新しいものではないのですが、AppleがiPhoneで使い出した"Retina"のおかげでここ最近大いに着目された感があります。人間の網膜の解像度は300dpi程度だと言われていますが、それに近い表示品質を持つディスプレイということでキャッチコピーに選んだわけですね。また、日本語の記事では精細度という表現が多いように思いますが、Microsoftはピクセル密度という表現を好んで使うようです。

 さて、精細度が高ければ表示が細かくなりキレイに見えます。よし、じゃあどんどん高精細度モニタを使おう、といきたいところなのですがこれまでは大きな障害がありました。PCは必ずラスターレンダリングを使います。何のことかというと出力の最終段ではピクセルを並べて画像にします。モニタがそうなっているのだから当たり前なのですが、モニタ上に表示される要素の殆どはピクセルベース、つまり点の集まりの情報です。いま、100x100の画像があったとして、それを100dpiのモニタ上で表示するとしましょう。出力される画像の一片は1インチです。これを200dpiのモニタに表示したらどうなるでしょうか、当然一片が0.5インチとなります。精細度によって表示の大きさが変わってしまうわけです。少しの変化であればどうということはありません。しかし、もしアイコンやボタンや文字が半分の大きさになってしまったら使いづらくなることは想像に難くありません。高精細度モニタを敬遠する人が珍しくないのはこのためです。
 ちなみに、WindowsのリファレンスDPIは今も昔も96dpiです。この数値には歴史的な背景があったりするのですがここでは割愛します。とにかく、現行のWindows 7でもこの値です。なので多数例外はあるものの、WindowsのUIは96dpiを想定して作られています。一方、上述したVAIO等はというとVAIO Duoが190dpi、Surfaceが208dpi、Samsungの試作品は226dpiにも上ります。ここに既存のWindows UIを表示させたらかなり小さく表示されてしまうことがわかってもらえるかと思います。

 話を戻しましょう。精細度を上げると表示が小さくなるという問題に対して、かなり早くからシンプルな回答が用意されていました。小さくなる分大きくすればいいのです。ところが、このシンプルな発想を実現するにはある課題が伴います。ラスターベース(点の集まり)の画像を単純に拡大するとジャギが生じてギザギザしてしまうのです。そこで、Windows 8では新たに解決策が用意されました。
 一つ目はベクターレンダリングです。細かく説明すると長いのですが、Photoshopに対するIllustratorみたいなもの、でわかってもらえると有り難いです。要はベクターベースの画像なら拡大してもキレイなのです。例を挙げるなら、最も身近なベクター画像はフォントに他なりません。Wordやブラウザで文字を大きくしても表示の綺麗さは変わらないかと思います(フォントにもよりますが)。Windows 8では現行に比べてベクター画像のサポートが大きく充実し、よりUIへの実装が楽になります。全ての要素をベクターベースにできれば品質を損なわずに好きなだけ拡大できるようになります。
 そうは言っても、ベクターレンダリングは単純な図形には適しているものの、写真等リッチな画像には不向きです。現在主流のコンテンツを考えるとラスター画像への対策も欠かせません。そして、ラスター画像をキレイに拡大させたいというニーズはなにも昨日今日に出てきた話ではなく、既に様々なノウハウが存在します。一般にアンチエイリアスやスケーリングと呼ばれる技術がそれらに当たります。なので、既存の技術を応用するというのも一つの方法です。実際、Windows 8ではアンチエイリアスにCrispを用いるようです。もちろん単純拡大とは違い処理が増えるのでその分重たくなりますが、現行機でGPUを有効活用すれば問題にはならないでしょう。
 ただ、フィルターをかけるというのは言わば応急措置のようなものです。単純拡大よりは優れているものの品質が落ちることに変わりはありません。そこで、Windows 8では想定倍率が設定されました。100%、140%、190%の三つです。三種類用意しておけば大体どんなモニタを使っていても困らないだろうというわけです。もちろん、これらは市場調査の上で決められた数字とはいえ、見方を変えれば三種類しか用意されないということでもあるのですが。ともかく、開発者は選択肢を得ることになります。ひとつはフィルタリングによる拡大に任せる方法です。想定倍率によるメリットとして、それぞれの倍率に対してフィルターを最適化できるので画像によっては十分な品質が得られるでしょう。もうひとつ、あらかじめ三種類の画像を用意しておくこともできます。手間は増えますが、それぞれの倍率用に画像を用意しておくことで表示品質を一切低下させないことも可能です。あえて無段階調整させないメリットがここにあります。

 ここまでの話で、Windows 8はどうやら高精細度モニタに最適化されているようだということがわかってもらえたかと思います。実際、個人的には欠点の少ない優秀なシステムだと素直に思います。が、これで万事解決かというとそうはいきません。まず、これまで挙げた新要素は全てMetro UI用のものです。レガシーモードと称されるおなじみのデスクトップモードでは使えません。WindowsのUI(エクスプローラー等)に関して言えば実は既に表示倍率の調整が可能で、うまく機能するので問題はなさそうですがサードパーティーアプリでは表示が乱れることもあるでしょう。
 次に、エンドユーザーにはあまり関係の無い話ですがウェブデザイナーは更に頭を悩ませることになりそうです。iPadのRetina採用から始まった高解像度化の流れにとうとうWindowsが加わります。早急にMetroなIE10向けのレイアウトを考えなくてはならないでしょう。とりあえず、HTML5/CSS4の早急な策定を願うばかりです。まあ、ウェブ標準化は高精細度化よりも遙かに厄介な問題ですが。
 そして最後が、混沌を極める標準DPIの設定です。繰り返しになりますがWindows 8でも内部DPIは96です。にも関わらず、Metro UIにおいてMicrosoftは135dpiを一つの基準と考えているようです。というのも、開発者ブログによると想定倍率は135dpiを100%とした上で決定されています。この数字は今主流の11.6インチでWindows 8の推奨最小解像度1366x768を持つモニタのDPIです。多くの開発者はこの135dpiをリファレンスとして用いるでしょう。しかし、普通に考えてこれは非常に不自然と言えます。MicrosoftはMetroでも96dpiをリファレンスと明示すべきでした。その上で拡大倍率を定める方が至極理に適っているように思えてなりません。もっとも、Microsoft純正のSurface RTは10.6インチ/1366x768で148dpiなので135という数字も素直に受け止めていいのか判断に悩むところですが。

 まだまだ課題もありますが、ひとまずWindows 8は高精細度モニタに最適化されていると言っていいでしょう。このことが市場全体の高精細度化を導くことは間違いありません。とりあえずはMetro UIに限定されるとは言え、殆どのエンドユーザーはその恩恵を受けられるかと思います。ブラウザとOfficeは既にMetro化されているので、筆者はこれらだけのためにRTデバイスが欲しいくらいです。Appleはいち早くRetina化を進め、既に高精細度モニタを体験している人も多いとは思いますが、iOS/Mac OSとWindowsではまた意味も大きく変わってきます。間違いなく新たなユーザーエクスペリエンスがWindows 8でもたらされるでしょう。ちなみに、個人的にはSurfaceが高精細度化のきっかけの一つになったのではないかと思っています。Microsoftが自ら200dpiを越えるデバイスを提示したことは、IFAで殆どのベンダーがフルHD液晶のUltrabookを出してきたことに少なからず影響しているでしょう。また、間違いなく国産メーカーも未発表のデバイスを用意しているはずですから、ホリデーシーズンに魅力的なマシンが並ぶのを楽しみにしたいと思います。
Tags: windows8